「お父さん!グラウンドに入ってお手伝いしていただけませんか?」
所謂『体育会系』ではなく『文化系』のお父さん・・
そんな感じの父でした。
あまりグラウンドに来ることがなかったそのお父さんに声をかけてみました。
「いや…私は…」
と少し躊躇されていましたが
「グラウンドに入るとお子さんの見えない表情も見れますから」
そう話したのですが
「私…野球やったことなくて…キャッチボールもしたことがないんです」
とそのお父さんは話してくれました。
「全然大丈夫ですよ!他にもお手伝いしていただきたいことありますから」
そう言って少し強引にグラウンドに入ってもらいました。
悪いことしたかな…
心の中でそう思いながらその日の練習が終わりました。
翌週…
そのお父さんはまたグラウンドに来てくれました。
またグラウンドに入ってもらい練習が終わった後…
「あの…恥ずかしいのですが…お願いがあるんです」
とお父さん。
「私は野球をしたことがなくてあの子と今までキャッチボールをしたことがありません。あの子とキャッチボールをしたいんです。恥ずかしいのですが、私に投げ方や捕り方を教えていただけませんか?」
キャッチボールを我が子としたい…
という想いより
我が子が大好きになった野球を知りたい…
そして我が子の力に少しでもなりたい…
そんな思いだったのだと思います。
「私でよければ喜んで!」
そうお父さんに伝えました。
それから毎週…
休憩時間や帰りの時間にお父さんとキャッチボールの練習が始まりました。
なるべくそのお子さんの目に入らない所で…
そのお父さんは、我が子とキャッチボールをする日を夢見て本当にがんばっていました。
しばらくして…
「お父さん…もう合格ですよ。自信をもってキャッチボールしてあげてください」
そう伝えると
「ありがとうございます。やっとアイツの相手をしてあげられます」
翌週…
「キャッチボールどうでした?」
そう尋ねると
「お父さん…本間コーチに教わってたでしょ。ってバレてました。でも…キャッチボールをやり始めて息子との会話が多くなりました」
嬉しそうにお父さんは話してくれました。
その後…
このお父さんは審判の資格までとって子供の野球と向きあっていきました。
キャッチボールをしたこの父と子は会話のキャッチボールも多くなりました。
それは父が子を想う気持ちからだったに違いありません。
父が子供の胸に投げたのはボールだけではなかったのかもしれません。
~年中夢球/photo buchiko~