私生活と野球は繋がっている。
僕は教え子にずっとそう話しています。
私の教え子の話です。
彼は技術は素晴らしいものを持った選手でした。
逆に言えば技術だけの選手。
ボールも真剣に追わず…
真剣に追ったふり。
道具の準備も大人の前だけ
やっているふり。
仲間が辛い練習をしていても…
声をかけることもない選手でした。
ある朝…
グラウンドに入る前にアップシューズのかかとを踏んでいる彼の姿が目に入りました。
ランニングとアップが終わり…
彼がスパイクに履き替えた後にアップシューズを見ると・・
明らかに今までずっと踏んでいたことがわかりました。
ちょうどお母さんがいたので
『アイツ…学校の上履きもかかとを踏んでいませんか?』
そう尋ねると
『すみません…何度も言ってるのですが…』
とお母さん。
『学校の宿題はどうですか?』
と聞くと
『すみません…殆んどやらなくて…』
とお母さんは困った顔で答えてくれました。
練習の合間に彼を呼びました。
お母さんも一緒に。
『お前さ…グラウンドの外でアップシューズ踏んでんだろ?』
単刀直入に聞くと
『あ…いや…』
と答える彼。
『学校で上履きも踏んでんだろ?』
続けて聞くとお母さんの方をチラッと見て
『あ…はい…』
と答えました。
『何で?何でかかと踏んで歩いてんの?』
と私が聞きました。
『いや…』
そうなんです。
ちゃんとした理由なんてないんです。
ただ1つだけなんです。
『めんどくさいんだろ?それ以外に理由があるなら話してみん』
私がそう聞くと
『そうです』
と小さい声で答えてくれました。
『アップシューズや上履きをきちんと履くために体をかがませるのがめんどくさいんだろ?宿題をやるのもめんどくさいんだろ?』
黙って聞いている彼に続けてこう言いました。
『お前のその”私生活のめんどくさい”がもろに野球に出てるよ。ボールを真剣に追わないのも同じだ。ボールを追うのがめんどくさいんだよ』
彼はまだ黙って聞いていました。
『そのアップシューズお前のお金で買ったのか?親が汗水流して働いて買ってくれた物をお前は踏んでるんだぞ。もっと言えばそのアップシューズを作っている人や買ったお店の人の気持ち…みんなお前に野球をがんばってもらいたいと思ってんだよ。お前が踏んでいるのはアップシューズだけじゃない。そういう人の気持ちも踏んでるんだよ』
そう言うと彼の眼から涙がこぼれ落ちてきました。
野球をする技術はあっても・・
野球をする心になっていない。
そう彼に話しました。
『とりあえず、かかとを踏むのをやめてみろ。絶対にこれからかかとを踏まないと心に決めろ。そんな小さいことから人間は変わるものだ』
話し終わった後・・
彼は号泣していました。
そこから彼は少しずつ変わっていきました。
そして・・
それは野球のプレーにも表れてきました。
私生活と野球は繋がっている・・
やっぱり僕はそう信じています。
~年中夢球~