『お前は本当に何をしても上手くならないな』
そのコーチはある選手にそう言っていました。
私はメジャーのコーチをしていました。
うちはグラウンドが2つあり一つはメジャー。
もう一つはマイナー【小3・小4】が主にグラウンドを使っていました。
マイナーのグラウンドで…
『お前は本当に何をしても上手くならないな』
あるコーチが一人の選手にずっとそう言いながら・・
ノックを打つ様子を別のグラウンドから見ていました。
翌週も…
翌週も…
翌週も…
同じような光景。
『お前にノック打ってももう無駄だ』
コーチにそう言われて…
彼はとうとうグラウンドから出されてしまいました。
確かにボールは捕れないのですが…
僕の中では彼は一生懸命ボールに喰らいついているように見えたんですね。
捕る捕らないではなく…
一生懸命やっているかいないかという点では彼はがんばっていました。
お昼の時に…
そのコーチに話をしにいきました。
『あの子、何でグラウンドから出したの?』
そう聞くと
『いや、毎週同じなんですよ。何をやっても上手くならないです』
彼はそう言いました。
このコーチ…
まだ年齢も若く指導経験もまだまだ浅い指導者でした。
『何をやってもか…俺にはただノックを打ってるようにしか見えなかったけど…』
僕がそう言うと
『どういうことですか?』
と彼は僕を見ました。
『あの子、グローブ上に上がるよね?』
そう言うと
『そうです。だからノックを打っている時に何回も言いました。でも何回言っても治りません』
と彼。
『それだけで何をやっても上手くならないってことになるのか?じゃあグローブを下に置いておくためだけの練習はした?捕球する前にグローブを地面に叩くとグローブを下にしておくイメージつきやすいよ。そこまでやったのか?』
そう言うと
『いや、そこまではしてません』
と彼は少し申し訳なさそうに答えました。
『簡単に言っちゃだめだよ。何をしても上手くならないなんて・・まして、まだ4年生だよ。そのセリフを言う前に君が考えなきゃいけないことはたくさんある』
少しうなだれている彼に続けてこう話しました。
『数週間あの子のノック見てたけど、ステップの使い方がすごく上手になってきているの気付いてたか?』
と聞くと彼は力なく首を横に振りました。
『この子は出来ないっていう先入観があると見えるものも見えなくなるぞ』
そう話すと彼はしばらく黙り…
僕にこう言いました。
『すみません。僕が間違えていました。グローブを下に置く練習方法を教えてください』
次の週から・・
あの子にトコトン付き合う彼の姿がありました。
どの子にも可能性はあります。
その可能性を見つけてあげることも・・
その可能性を失くしてしまうのも・・
指導者なのではないでしょうか?
~年中夢球~