この間20代の元高校球児の方と食事をする機会がありました。
『本当は泣きたかったんですよ・・』
そう彼は言いました。
最後の夏・・
ノーシードの彼の高校は快進撃を続けていました。
【常笑軍団】がスローガンだった彼の高校は試合中も笑顔を絶やさないチーム。
【爽やかナイン快進撃!】
【常笑軍団ベスト8!】
地方紙の新聞にこんな見出しで掲載されていたそうです。
『今、考えると・・最初は自分達で笑顔を作ってたんですよ・・それは間違いないんです。
ただ騒がれれば騒がれるほど・・なんとういうのかな。
それをしなくちゃいけないというか・・作らされた笑顔だった気がします』
彼はそう答えてくれました。
ベスト8の試合で彼の高校は力尽きました。
甲子園に出場したことがある高校に大接戦の末・・敗退しました。
『負けた瞬間・・他の選手はどんな様子だったのですか?』
そう聞くと・・
『いや・・それが僕見てないんですよ。負けた瞬間・・しばらく下を向いてボーッとしていて・・。
誰かに肩をたたかれて・・我に返ってみんなを見た時・・笑顔でした』
そう答え・・
続けてこう話しだしました。
『だから・・あーみんな笑顔で終われたんだな・・って。
俺も笑顔で終わらなきゃ・・そう思いました』
試合に負けた後・・
取材がたくさん来ていたそうです。
彼自身も・・
他の選手も・・
涙を流さず・・
笑顔でその取材に答えていました。
取材陣がいなくなり・・
選手だけになった時・・
誰かからすすり泣くような声が聞こえてきました。
そのすすり泣きは・・
やがて・・
大声の涙声に変わり・・
次々に他の選手も全員が大声で泣いたそうです。
『試合が終わってすぐに・・
全員泣きたかったんですよ。
でもスローガンの事もあったし・・
新聞の事もあったし・・
なんだか爽やかに笑顔で終わらなきゃいけない・・
そんな雰囲気になってしまってたんですよね』
そう彼は話してくれました。
本当は泣きたかったんですよ・・
その一言が私の心にずっと頭の中に残りました。
【悔いなく終わりたい】
そう言っている高校球児の中には・・
【悔いなく終わらなければいけない】
と思っている球児もいるのかもしれません。
ひょっとすると・・
我々大人が
【創り上げてしまっている高校球児】
がいるのかもしれません。
敗れた次の日の新聞には
【○○高校!笑顔の敗戦】
そう書かれていたそうです・・
誰にも知られていない涙があります。
~年中夢球~