今の高校2年生の年代の話です。
リトルリーグというのはピッチャーに球数制限と次の試合に投げることが基本的には認められていません。
ですから、一人いいピッチャーがいてもなかなか勝つことができません。
この年代は一人絶対的なエースがいる年代でした。
全国選抜という大きな大会があります。
その大会前の練習の時です。
ブルペンで投げているエース。
Tといいます。
いつもより球が走っていないなあ・・
そう思って見ていました。
『どっか痛いか?』
そう聞くと
『いや・・大丈夫です』
と答えるT。
このTという選手はともかく無口な男で殆どしゃべることもない男でした。
ピッチング練習が終わって・・
キャッチャーの選手が私のところに来てこう言いました。
『本間コーチ・・T・・どっか痛いはずです』
『Tが痛いって?』
そう聞くと
『いや・・俺が聞いても痛くないの一点張りです』
そう答えた後にキャッチャーの子は続けてこう言いました。
『あいつ・・どっか痛いときに右目だけつむるんですよ』
指導者としてお恥ずかしい話なのですが、私に気が付いていないところをこのキャッチャーの子はわかっていました。
その後にTを呼んで話しましたが最初は
『痛くない』
一点張りでしたが、やがて肘が痛いことを認めました。
病院に行くと復活までは約1か月以上かかるとのことでした。
全国選抜大会には彼抜きで戦うことになりました。
私のチームでは背番号は大会ごとに決めることになっています。
背番号の1-9はスタメンに出る子が基本的にはつけることになっています。
監督・コーチと背番号を決める話し合いで意見が分かれることになりました。
試合に出られないTは従来通りでいけば基本的にはケツ番になります。
『例外はない。かわいそうだけどTはやっぱりケツ番に』
そういう意見が大半を占めましたが・・
『エースナンバーはTでいきましょう。子供たちには僕から話します』
そう私からコーチの方にお願いしました。
背番号を渡す日・・
『1番・・T』
そう言うとTは一瞬『えっ?』という顔に・・
『Tはこの大会に出られる可能性は低い。だけどお前たちが勝ち続ければTが投げられる可能性が出てくる。色々、考えたけどやっぱりエースナンバーはTでいこうと思う』
そう選手に告げると
『賛成で-す!』
『ってか他に1番つけられるやついねーし』
『Tをマウンドに上げるためにがんばろう』
そういう声が選手から上がりました。
全国選抜大会・・
彼らは必死に戦いました。
Tをマウンドに・・
エースをマウンドに・・
その想いがチームを強くさせました。
が・・
彼等は準決勝で敗れました。
Tは全国選抜大会のマウンドに立つことなく大会を終えました。
しかし・・
3位決定戦を制し彼らは東日本大会に出場しました。
東日本大会のマウンドには
背番号『1』をつけたTの姿がありました。
全員が大舞台にTをマウンドに立たせる・・
仲間のその想いが届いたのだと思います。
Tもその仲間も・・
今年の夏に高校野球最後の夏を迎えます。
~年中夢球 photo buchiko~
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