高校野球の夏の大会が近づいてきました。
この時期になると残念ながらベンチに入れなかった高校野球球児は「チームのために」様々なポジションにつくことになります。
偵察部隊、データ収集、応援団…
そして、練習に参加してもメンバーのために動くことになります。
ブルペンキャッチャーもその一つです。
毎日毎日ひたすらピッチャーの球を捕り続けるブルペンキャッチャー。
彼等にも訪れる「夏」があります。
そして、私の教え子が今、この「夏」を迎えようとしています。
先日、彼から連絡がありました。
「本間コーチ、最後の夏、メンバーから外れました。自分に出来ることを精一杯やって最後の夏がんばります。あの時、本間コーチに言われたブルペンキャッチャーの事を思い出してがんばります。」と。
文を読んでいるだけで泣けてきました。
あの時のこと…
彼が小学5年の時のことです。
一学年下の彼は練習や試合でもブルペンで球を捕ることが多かったんですね。
なんとなくただ捕っているように見えた彼に聞いてみたことがあります。
「今、ブルペンで何を考えて受けてる?」
「えーっと…いい音を鳴らせるようにしています」と答える彼。
「おーそれも大事だなあ…後は?」
「…」
小学生には難しいですよね(^_^;)
「受ける前にピッチャーと話し合いをしたか?今日は何の課題を持って投げるのか。ピッチャーが今日はどんなことを試したいのか。キャッチャーはピッチャーとコミュニケーションをとることがまずは大事だ。それに、ピッチャーによって性格も違う。早くボールを返球してほしいヤツもいれば、ただ速いボールを投げたがるヤツもいるはずだよ。ピッチャーの性格も考えてみん。」
すると彼は…
「それ誰ですか?」
と聞いてきたので、
「それを自分で見つけるからキャッチャーは面白いんだよ」
とちょっと意地悪かもしれませんが、答えを教えませんでした(^_^;)
そして…
「ブルペンに入って球数を捕るだけなら誰でも出来るぞ。ピッチャーとコミュニケーションをとって、ピッチャーの性格も考えて座ってみん。色んなものが見えてくるはずだよ。」
こう話しました。
彼が言った「あの時」のこととはこの時のことだったのだと思います。
あの時に言ったことを彼がその時に理解してくれたかはわかりませんが、メンバーから外れたこの時期に思い出してくれたことが指導者として何よりも嬉しかったです。
今、彼は、毎日毎日、何球も何球も球を捕り続けているでしょう。
一人ではなく何人ものピッチャーのボールを受けているでしょう。
ピッチャーとコミュニケーションを取り、ピッチャーの性格も考えて…
きっと、そんな彼はピッチャーの想いも受け止められるいいキャッチャーになっているはずです。
本来ならキャッチャーというのは残りの8人の顔を見れるポジションです。
ですが、今の彼には、ピッチャーという一人の顔しか見れません。
ですが、彼の視線の先には、甲子園を決めて喜ぶ全員の姿が見えているのかもしれません。
試合に出ている9人だけで…ベンチにいる20人だけで野球をしているわけではありません。
20人以外の選手も必死に戦っている夏があります。
それぞれが置かれた場所で咲く夏があります。
夏の向日葵は皆、太陽の方向を向いているから「向日葵」と呼ばれています。
部員全員が同じ方向を向いているのは甲子園のはずです。
甲子園というキラキラ輝く太陽のような場所へ…
彼の最後の夏も始まります。
いや…
もう彼の夏は始まっています。
~年中夢球~
※画像と文面は関係ありませんのでご了承ください。