私が指導してきた選手の中で・・
一番涙を流したキャプテンの話です。
毎年・・
大体キャプテンにする選手は頭の中で決まっているのですが・・
その年代は【キャプテンタイプ】の選手がおらず・・
その中でも一番意識が高い彼をキャプテンに選びました。
私に叱られ・・
ノックもいつも一人残され・・
彼はよく涙を流していました。
しかし・・
声も眼も彼は死んでいませんでした。
彼は2番セカンドタイプ。
武器はバントと守り。
1対1ででバントを2時間・3時間やることもありました。
ラストは10本連続で成功させたら終わり。
『いいか。プレッシャーがかかる所でバントを決められるかどうかだ』
そう話していました。
8本・9本までは成功するのですが・・
そこからはプレッシャーがかかり失敗して又最初から。
気が付くと半日ずっとバントだけをしていた日もありました。
そして・・
彼の眼には涙が・・。
彼は守りが上手い選手でしたが・・
左側のゴロを苦手としていました。
最後の上がりノックで・・
左側を何十本も何百本も打ってきました。
真っ暗になるまで・・
何本も何本も・・。
そして・・
彼の眼には涙が・・。
彼が高校2年の時・・
終盤に彼のエラーで逆転負けをしたと・・
お父さんから連絡が来ました。
『エラーしたゴロはどっち側?左?右?』
私が一番最初に聞いたことでした。
想像した通り・・
彼が苦手だった左側のゴロでした。
もっと左側のゴロをリトルの頃に練習させておけば・・
その想いが頭を駆け巡ったのを覚えています。
家から出られないぐらい落ち込んでいる。
そうお父さんから聞いて彼に連絡をしました。
『野球で味わった悔しさは野球をやっている間に取り返しなさい』
そう彼に伝えました。
1年後・・
彼の最後の夏は私の娘がマネージャーをしている学校と対戦することになりました。
試合前から複雑な思いでした。
試合は接戦。
彼は苦手としてした左側のゴロも難なくさばいていました。
娘の高校が2-1とリードしたまま最終回へ。
彼の高校の先頭バッターが出塁してバッターボックスへ向かう彼。
間違いなくバントの場面。
リトルの時・・
二人で何時間もかけて練習してきたバント。
あの場面が脳裏をよぎります。
こういう場面のためにあの練習があったはず。
1球目・・
バントはファウルに。
心のプレッシャーも・・
ファーストとサードのプレッシャーも・・
色々な重圧が彼にはあったことでしょう。
2球目・・
またバント失敗。
3球目・・
バントの構えをする彼。
スリーバント。
更にプレッシャーがかかる場面で・・
彼は見事にバントを成功させました。
試合はそのまま2-1で娘の高校が勝ち・・
彼の夏は1回戦で終わりました。
球場の外で彼のお父さんに出会いました。
『あいつ・・どうしてる?』
そう聞くと・・
『笑ってるよ。笑顔で終われたみたい』
そう答えてくれました。
泣くことが多かった野球人生だったけれど最後は笑顔で終われたんだな・・
そう思っている時に彼が私を見つけました。
ニコッとした笑顔で走り寄ってくる彼。
その笑顔が駆け寄ってくる途中から涙顔に変わり・・
私の所に来た時は大泣きでした。
その姿を見た私も大泣きでした・・
彼が野球人生で流したたくさんの涙。
野球人生最後の涙は一緒に流させてもらいました。
~年中夢球~