彼は小学5年生から野球をやり始めうちに入団してきました。
他の子より遅く入団したため野球の技術はまだまだこれからという選手。
チームの仲間も彼を受け入れ、彼もすぐにチームに溶け込んでいました。
彼が入団して初めての公式戦がやってきました。
彼の背番号は「ケツバン」
所謂一番大きい背番号です。
背番号発表の時…
彼の名前を呼ぶと大きな声で
「はい!ありがとうございます」
そう言って嬉しそうに背番号を見ていました。
一番大きな数字の背番号ですが初めてもらう背番号。
「この背番号の数字ががどんどん小さくなるようにがんばろうな」
彼に伝えました。
彼のお母さんに
「背番号の縫い方わかりますか?わからなかったら周りの母に聞いてくださいね。初めての背番号ですから想いを込めて縫ってあげてください」
そうお話ししました。
「入団したばかりなのに背番号いただいてありがとうございます。想いを込めて縫わせていただきます」
お母さんはそう言って母達に背番号の縫い方を教わっていました。
公式戦の朝…
グラウンドで整列をしている時に選手が
「あれ…お前の背番号に血がついてる!」
「本当だ!お前どっか怪我してるんじゃないの!」
そう…あの彼のことです。
「えっ…怪我なんかしてないけど…」
そう言った彼の背番号には確かに小さいいくつかの血がついていました。
彼のお母さんを見るとなんだか困ったような笑みをこぼしていました。
フッと…
お母さんの手を見ると…
指に幾つか絆創膏が…
「お母さん…ひょっとして…」
そう話すと
「昔から裁縫が苦手で…想いはたくさん込めたんですけど…大事な背番号を汚してしまってすみません」
とお母さん。
初めてもらった背番号。
苦手な裁縫でしたがお母さんの想いがたくさん込められた背番号でした。
整列した選手全員に
「いいか。お前たちの後ろにある背番号は寝ている間にお母さんが想いを込めて縫ってくれたもんだ。怪我をしませんように…チームに貢献できますように…勝てますように…そういうお母さん達の思いが込められてることを忘れてはいけない」
そう話しました。
彼等が「一球入魂」ならば・・
母たちは「一針入魂」
一針一針に母達の想いが背番号に込められています。
卒団の時…
「初めてもらった背番号の想いを私も子供も忘れないようにこれからも野球をがんばります。背番号を縫うのは上手くなりませんでしたけど」
彼のお母さんはそう話したあとにこう続けました。
「私、少しでもいい事がありますようにって…あれから背番号を縫う時は大安の日に決めてるんです」
背番号を通して母は子供に色々な想いを伝えていることを私に教えてくれたお母さんでした。
だからこそ我々指導者も真剣に背番号を決めなくてはなりません。
二桁はみんな一緒なんかじゃありません。
今は背番号がマジックテープになったりボタンになっている所も多くなっていますが
母が一針一針想いを込めて縫う背番号が子供に伝わることがあると思っています。
~年中夢球/photo buchiko~